久々にホールでのピアノ発表会に出た。
最近ではレストランフロアの貸し切りとか小規模な多目的ホールような所が続いていたので、小ホールとはいえ反響板があるホールで演奏できたのが純粋に嬉しかった。
たまたまそのホールは残響が少なかったので少し残念だったが、わたし個人としては演奏原理の探求を始めてから初めての(?)ノーミスで内容も良かったので、とても満足している。
同時にこのブログで演奏原理について発信し始めたところだったので、自分の探求内容があながち間違ったことを伝えてはいなかったんだと自分の演奏を通して確認でき、ホッとしている。
しかし、ここへ来るまでにどれほどの失敗と反省と挑戦を繰り返してきたことか・・・(涙)
思い返せば感慨深いことばかりだ。
今回そういう意味での達成感も感じているので、今までの経験からわかった本番でのリスクとその対策についてまとめてみた。
- 本番で陥りやすい6つのリスク
- リスクを最小にする知っておきたい4つの対策
- まとめ
そもそも、人前での演奏でアマチュアが100%大満足で終われることはまずないので、完璧でないことを落ち込む必要はない。
どんな出来栄えでも、自分に寛容になりながら前向きにチャレンジしていけること自体が素晴らしいと思っている。
それを前提として、この記事がベストを尽くすための参考になれば嬉しく思う。
本番で陥りやすい6つのリスク
どんな状況になるかは本番になってみないとわからない。たとえ不本意な経験をしたとしても、それは次回の糧となるので実は失敗も悪くはない。
けれど、しなくてもいい心配や失敗はできるなら避けたいものだ。
わたし自身はすでに数多くの失敗をしてきたので、だいたい本番前にはどうなるか想像がつく。リスクをわかっていれば、毎回少しずつでも改善して上手く切り抜けていけるようになるので、心づもりをしておこう。
<本番で陥りやすい6つのリスク>
- 緊張する
- 不安になる
- 集中できない
- 我に返る
- 止まる
- 手が冷たくなる・体が固くなる
これらのリスクは独立してはおらず、すべて関連づいている。
不安があるから緊張する。緊張しすぎると集中できなくなったり、我に返ったりする。気持ちが散漫になり音楽に乗れなくなって止まる。また、緊張するから体が冷えて固くなり動きが悪くなって止まる。
必ずしも途中で止まるわけではないけれど、負の連鎖で引き起こされる可能性がある。
はっきり言って、どんなに上手に弾ける人でも緊張はするのだ。だから緊張することがいけないとは思わない方がいい。
実際、上手に弾ける人の緊張はいい意味に働いているのだと思う。緊張感に負けるのではなく、味方につけて集中した良い演奏にしていけるのだ。
今回、わたし史上稀にみるほど上手く弾けたのは、不安要素がかなり少なかったことが要因だと思っている。
なので、不安要素が多い状態で緊張すると負の連鎖に陥りやすくなると理解した。
リスクを最小にする知っておきたい4つの対策
本番にどのような状態になるのかをある程度分かっていれば、焦ってヘマをすることが減る。
そこで本番の演奏をよりよいものにしていけるような対策を4つ挙げてみる。
対策① 緊張感と上手くつきあう
本番において緊張は避けては通れない。どうせ緊張するのだからそれとどうつきあうのがベストなのか、経験を通して得たことを書いてみる。
- 緊張はして当たり前なので、抵抗しないこと
- 緊張している自分を俯瞰して、冷静な自分の方に意識を寄せる
- 演奏そのものに集中するには、いつもの感覚を呼び起こすこと
- 本番に向けての十分な準備が整っていれば、緊張感は味方になる
緊張はして当たり前なので、抵抗しないこと
不安や緊張があると上手く弾けないから、それらを感じてはいけないと思ってはいないだろうか。
どうしたってそれらは感じてしまうのだから、本番に不安になったり緊張したりする自分を想定し、それは自然なことだと受け入れてしまおう。
どんなときでもどんな人でも、完璧なんてほぼありえないと思っている。聴いている方が完璧な演奏だと思っていても、弾いている本人にしたらいろいろ悔やまれる箇所があるかもしれない。またどんなに練習したって、本番において不安や緊張がまったくない状態もありえない。
だから不安や緊張はあって当たり前だと受け入れて、無駄な抵抗はやめよう。緊張してはいけないと抵抗すればするほどそこに気持ちが持っていかれてしまうから。
緊張している自分を俯瞰して、冷静な自分の方に意識を寄せる
もし、ものすごく緊張している自分や体の反応(硬さや震え)に気づいたら、それを心や体にため込まないように流してやろう。消えなくてもいいのでそれをイメージで外に逃していこう。
今自分は緊張しているんだなと少し俯瞰してみることで、緊張していてもそれに飲み込まれないようにすることができる。
緊張しているな、と少し冷めた視点で感じている自分が本当の自分なのだ。そちらの意識に合わせることがあがらずにいられるコツである。ぜひ試してみてほしい。
演奏そのものに集中するには、いつもの感覚を呼び起こすこと
緊張するのはわかっているけど、それでもベストを尽くすにはどうすればいいんだろう?
緊張感の中でベストを尽くすには、演奏そのものに集中できる精神力がいると思う。その精神力とは、準備万端であることやこれまでの経験値、その人の性格的な要素などいろいろな面から構成されている。まさに日々の鍛錬が本番に物を言うという感じで、対策として言うにはあまりにも抽象的だ。
敢えて具体的に表現するなら、ベストを尽くすためには「本番であってもなるべく集中できる状態にもっていくこと」ということになるだろう。
本番なのだから演奏することにおいて勝負したい。他の要因に足を引っ張られたくない。”演奏すること”に集中するにはどんな工夫や準備が必要なのか考えながら練習することが大切だ。
例えば、毎回弾き始める前に何かを唱えるとか、深呼吸するとか、普段から決めてやっていることを本番でも同じようにすることで弾くことに集中しやすくなる。特別な場面にいつもの感覚を呼び起こすことができればしめたものだ。
普段から弾き始める前のルーティンを持っておけば、それをすることで集中することにスイッチが入るのね!
意外と演奏前のルーティンのような細かい積み重ねが力になってくれるのだ。本番間近だけでなく、日頃からの習慣にしておくといいだろう。
本番に向けての十分な準備が整っていれば、緊張感は味方になる
ところで本番という緊張状態の中で弾くとき、必ずしも萎縮するとは限らないことを知っておこう。
練習もバッチリがんばったし、表現したい気持ちも十分あるなら、本番の緊張感は適度な高揚感と集中力をもたらしてくれる。
そのような状況での演奏は一期一会の出来栄えで、本番でしか出せない音色だったりする。
また、不安をはねのけて思い切って表現できたとき、やったね!と自分を褒めてあげたくなるはずだ。完璧ではなくても、緊張感の中で自分の音楽を表現できたときの達成感や喜びを味わおう。
一度でもその感覚を体験できたなら、次回のためのイメージングとしてしっかりと覚えておくとよい。
そういう満足感を得たいから何度もチャレンジするのね。
結論としては、本番で緊張している自分にとまどったり、心配したりしなくてもいいということ。それが普通だからそれに囚われないようにしよう。
むしろ緊張感を味方につけられるぐらい、準備万端にして臨もう。
対策② 本番を想定する
本番で演奏する状態を想像してみよう。どんな感覚で弾いているだろうか。
それは、家でリラックスした部屋着で弾いている感覚とは180度違ってくるはずだ。
いざ本番になっていろいろ気が散ってしまわないように、本番てどんな感じなんだろうと想定してみることが大事である。
以下、本番の感覚を呼び起こすためにできることを挙げてみた。
- 他人に演奏を聴いてもらう
- 練習時間とは関係なく弾く
- 可能な限りいろんなピアノで弾いてみる
- 本番用の靴を履いて弾いてみる
- 本番の衣装で弾いてみる
- 本番は想定外のことが起きる 入念なチェックを!
他人に演奏を聴いてもらう
先生や家族や友だちなど、誰かに聴いてもらうことはとても良い刺激になる。
緊張感がでるので、演奏中の自分の意識状態や重点的に練習したほうがいいと思われる箇所に気づけるからだ。
練習時間とは関係なく弾く
本番というものは、自分のコンディションに関係なくやってくる。順番がきたら瞬時に整えて弾かなければならない。
そんな状況を疑似で作るために、練習時間とは別に“一回だけ通しで弾く“ことを本番近くなってきたら繰り返しやってみることをおすすめする。
今この一回の演奏でどの程度の仕上がりで弾くことができるのか知っておくのも悪くない。
お辞儀をして弾きだすのもグッと気が引き締まっていいわよね。
可能な限りいろんなピアノで弾いてみる
本番のピアノはいつもの弾きなれた鍵盤とは違う。重かったり軽かったり、他にも明らかに感覚が違うものだ。
いつもと違う鍵盤の感覚とはどんなものか。そしてそれにどのように対応して弾けるのか体験しておくと落ち着く。
自宅以外にピアノ教室や学校、楽器店などの練習室のレンタルもあるので利用してみるのもいい。
本番用の靴を履いて弾いてみる
本番でペダルを使わずに弾くことはほぼないだろう。女性ならヒールの高いパンプスが多いので、部屋でスリッパでペダルを踏むときの角度とかなり違ってくる。
慣れておかないとペダリングが上手くできなかったりして本番で焦ってしまうことになる。
本番のピアノは鍵盤だけでなくペダルの感覚も違うので、弾き始める前にパンプスで1~2回ペダルを踏んでみて、その深さや固さを確かめるといいわよ。
本番の衣装で弾いてみる
本番というものは明らかにいつもと違うのに、身に着けているものも慣れないものばかりだ。
演奏に集中できるように、ドレスやパンプス、アクセサリーなど身に着けるものの感覚をあらかじめ知っておくことが大事だ。
違和感のあるものなら取り替えるかそのまま我慢して使うか前もって準備しておこう。
本番は想定外のことが起きる 入念なチェックを!
“本番“というものを経験したことがあるなら、そこでは想定外のことが起きることを体験したことがあるかもしれない。
どうにもならないことではあるが、ステージでの照明やそれによる鍵盤の影が気になったり、派手な飾り付けが視界に入ってきたり、会場の様々な音によって気が散らされたりすることがある。
その上でどのように演奏に集中できるかを考えて練習しておくことも大事だ。
また、とりあえず用意しておくと安心するものとして【セロテープ 安全ピン クリップ】がある。
これらは楽譜やドレスなどの調整で使うことがある。
過去の経験から想定外だった具体例
その1)あるときの伴奏では、舞台での空調の加減で楽譜コピーが風でめくれたりして、弾きながらハラハラドキドキした。それ以来、大丈夫そうであっても楽譜コピーの裏に丸めたセロテープをくっつけて譜面台に固定して弾いている。
その2)あるときの結婚披露宴でBGMを頼まれたとき、照明が落とされた瞬間、ピアノ周りに何の明かりも用意されていなかったので、かなりの暗闇で弾かなければならなかった。
(楽譜が見えず、泣きそうな経験だった…)それ以来、演出で暗くする場合は手元の明かりがあるか確認するようになった。
ピアノが主役の発表会ではあまりないことだけれど、演奏が裏方に回る場合は自分で気をつけていないと意外と落とし穴がある。
もちろん今では、この2つの事例は想定内になっている。
対策③ “今この瞬間”にいる練習
本番を想定して弾く練習をすることは大事である。
けれど、意識が本番という未来に飛び過ぎて「今ここ、この瞬間」にいられなければ、本番でとまどうことになる。
なぜなら、本番ではよほどの強者でなければ空想の世界にいられないからだ。人々の注目を集める中、否応なく「今この瞬間」を感じないわけにはいかない。
「今この瞬間」を意識してこなかったなら、ステージ上で何をしていいかわからなくなるかもしれない。惰性や感覚だけで練習してきていたなら、弾き方すら思い出せないかもしれない。そのぐらい“本番”というものはその瞬間にフォーカスが当たってしまうものなのだ。
だから本番にもろに感じてしまう「今この瞬間」というシビアな意識状態に普段から慣れておかなければならない。「今この瞬間」という自覚の中で演奏できなければ意味がないのだ。
「今この瞬間」という感覚自体は、本番であっても練習時であっても等しい。
だから、練習で演奏するときも「今この瞬間」という感覚をもって弾こう。
対策④ 我に返らず、変性意識状態を維持する
演奏中は「今この瞬間」を“演奏すること”に向けなければならない。間違っても“ステージ上で注目を集めている「今この瞬間」という状況“に注意を向けてはいけない。そこに意識を向けてしまっては肝心の音楽を自分の内側に聴くことができなくなるから。
「今この瞬間」を“緊張状態にさらされている自分“ではなく、”演奏する”ことに意識を向けるのね!
意識の焦点をどこにあてるかということがとても重要なのだ。演奏中は演奏することに意識を向ける。わかり切ったことだけれど、そこから離れて気が散ったり、気が削がれてしまうといい演奏ができない。
最近、同年代の演奏仲間で話題になるのが、演奏中に譜面見ると老眼で焦点が合いづらくて演奏がひっかかるということだ(悲)
楽譜をおおざっぱに見るのではなく、一点集中で音符を見ようとすると、演奏に向けていた集中力が弱まる。なおかつ求めていた音符が見えづらくて何の音か考えてしまうと危うく演奏が止まってしまいそうになるのだ。
がんばって暗譜するしかないんじゃない?
完璧に覚えるのは趣味の立場では労力がかかるのよ。少しでも安心して弾きたいしね。
暗譜が苦手なら、周りに迷惑をかけないためにも楽譜をおいて弾くことをおすすめする。
わたしも完璧な暗譜は負担が大きいので、お守り代わりに楽譜を置いておきたい。
でも楽譜を見てもひっかかるなんてつらいわ。どうすればいいの?
演奏中の意識が“演奏している”ことからブレなければいいのだ。譜面に目を移したとたん、何の音か把握しようと強くそのことに意識を向けると“演奏している”ことからブレてしまう。
自分の内側に聴こえる音楽にしっかりつながっていれば、何の音か譜面上で確認できなくても音楽の流れに従って自然に指が必要な鍵盤を打鍵するだろう。(※普段から何の音か把握して練習しているからこそできること)
また、仮にその部分の音が抜けたりミスタッチをしてしまっても大筋の流れから逸脱せずに済むはずだ。
自分の内側に聴こえる音楽としっかりつながるということは、演奏し始めたら何があってもその音楽を聴き続けるということだ。
演奏とは音楽を聴いている意識、音楽とともにある感覚である。これは通常の意識ではなく一種の変性意識といえるのではないだろうか。
演奏するということは、通常意識の状態から音楽に身も心も委ねている感覚に入るということ。だから普通の意識状態とは少し違っているという自覚をもったほうがいい。
わたしたちのようなピアノの趣味レベルの者たちは、本番において周りに人がいても気にならないほどの没入感はなかなか得られないと思うが、演奏するからには自ら変性意識状態に寄っていく必要があると思う。
変性意識状態を維持していれば、楽譜を目で追ったり、周りの状況を察知したとしても演奏している感覚を維持しやすい。
ポイントとしては”演奏している”という軸をずらさないことになる。
譜面を見るということに限らず、何らかの理由で演奏中に我に返って通常意識の度合いが強まると、音楽から切り離されて急に演奏がしらけたり不安定になったりする。
だから、この演奏しているという意識(音楽とともにある感覚)と一時的であっても離れてしまうと危ないということを覚えておこう。音楽とともにある感覚から離れて我に返ってはいけないのだ。
本番におけるミスを最小にしたり防ぐために、演奏中は変性意識状態で弾く比重を多くしよう。
まとめ
本番での演奏は緊張をどのようにやり過ごすかということが重要なポイントになる。
緊張に押しつぶされないためには、緊張によって震えている自分を俯瞰して見ている冷めた自分に気づくこと。その自分こそが本当の自分なのだ。
無我夢中で気づいたら演奏が終わっていたというのは良くない。
たとえボロボロになっても「本当の自分」というものに気づくことができたら素晴らしい。
なぜなら「本当の自分」でなければサブタイトルに表している音楽と意識とからだをひとつにすることができないから。
演奏中に「本当の自分」に気づくことはその第一歩となる。そのためにも本番を有意義に活用しよう!
- 6つのリスクはすべて関連して起きている。
- 不安要素が少なければ、緊張はいい意味で作用する
- 緊張は練習量にかかわらず誰でも経験するので、抵抗せずに受け入れること。
- 極度に緊張するなら、体やこころに緊張のエネルギーを溜めないように自分から外へ流れていくようにイメージする。
- 緊張に押しつぶされないためには、緊張によって震えている自分を俯瞰して見ている冷めた自分に気づくこと。その自分こそが本当の自分であることに気づくこと。
- 本番を想定して練習することで、練習時とは違う負荷がかかっても焦らずにいられる。
- 本番に強く意識せざるを得ない「今この瞬間」という集中した感覚を“演奏する”ことに向ける
- 本番で我に返って演奏が止まらないように、弾き始めたら最後まで音楽とともにある感覚(変性意識状態)でいること
最後までお読みいただきありがとうございました♪
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