クラシックの曲が好きなんだけど、自分で弾くと上手くいかなくてため息がでることはないだろうか。
あんな風に弾きたい、こんな風に表現したいとイメージできるのに、実際にはなかなか思うように弾けない。どうせ私なんてこんなもの…と思っているのなら、諦めないでほしい。
演奏する上でのからだの使い方について、あなたはまだ知らないことがあるかもしれないからだ。
たとえばバランス感覚。ピアノ演奏など特殊な動きをするものは結構複雑なバランス感覚が必要だ。その辺を適当にしていると弾きにくさを感じてしまうだろう。
大事なことなのに、なぜかレッスンではからだの使い方について根本的に教わるということがない。とりあえず弾けているので、そのまま演奏へのアドバイスになる。
わたし自身、弾きにくさを訴えても「脱力できていないからよ!」の一言で、結局自力で解明しなければならなかった。
なんだかすごく愚痴に聞こえるわね(汗)
ここでは、レッスンではくわしく教わらないからだの根本的な使い方についてまとめている。
とにかく、からだを上手く使えないと思うように表現できない。わたしの場合、練習のほとんどをからだの使い方に費やしてきたようなものだ。
なので、どんな風にからだを使えばいいのか基本的なところはマスターしたつもりだ。
弾きにくさを感じているなら、この記事を読んで上達するための一つの参考にしてもらえたらと思う。
演奏中のからだの動きの根本は「重心移動とバランス感覚」だ!
からだの感覚は人それぞれなので、やはり自分の体感がすべてになる。それをわかった上で基本的な理解を得られるように説明していこうと思う。
それをベースに実験してみることであなたなりの良い方法がみつかれば嬉しく思う。
からだは常に動いてバランスをとらなければならない
ある箇所では上手く弾けるのにある箇所ではミスタッチが多かったり、音量が出なかったり、遅れたりして弾きにくいのなら、その部分はきっとからだの重心が上手くとれていないのだ。
言うまでもなく、演奏中はずっとからだを動かしている。
常に動き続けるからだを安定させるには、サーフィンの波乗りのように安定するポイントを求めてバランスをとり続けなければならない。
電車の揺れの中で倒れないようにするには、二本の足の裏のさまざまな箇所(足のつま先からかかとまで)で重心を移動させてバランスをとる。それと同じで、安定して演奏するにはピアノを弾く姿勢で演奏中にバランスをとっているのだ。
電車では二本の足の裏だったが、ピアノでは二本の足の裏、イスと接触しているお尻、鍵盤と接触している指先でバランスをとっている。
つまり、床、イス、鍵盤に接触している面を支点として、そこにかかる重心が、からだが動くたびに安定ポイントを求めて常に移動しているのだ。これが上手く機能していないと、ある箇所では弾きにくいということが起こってしまう。
上半身と下半身はそれぞれバランスの目的が違う
思うように演奏するにはからだを思うように動かせないといけない。つまり上半身が自由に動くことができなければならないのだ。そしてそれを実現させるのが下半身の役目だ。
皿回しをイメージしてみてほしい。
腕をまわしてお皿を回し続けるには、下半身が上半身の重さも引き受けて上半身に力が入らずに自由に動けるようにする。そして動きに合わせてバランスをとりながら上半身を支えている。
それによって上半身はお皿を回すことに集中してからだを使えるのだ。
ピアノ演奏における動きの根本もそれと同じで、下半身と上半身の役割が違う。
<上半身と下半身におけるそれぞれのバランスの目的>
- 下半身は上半身が自由に動けるように重心を求めてバランスをとる
- 上半身のバランス感覚は打鍵を安定させることに向けられる
下半身は上半身が自由に動けるように重心を求めてバランスをとる
バランスをとるとは、目的とする動作を安定して行えるようにつり合いをとるということ。
ピアノ演奏のように動きながら安定感を維持させるには、からだの重心を感じて、動きに合わせて重心を移動させることが必要だ。このことをピアノ演奏におけるバランスをとるということの定義とする。
また重心は低い方が安定感がある。からだの重さを下半身でしっかり感じることで重心が下がり、上半身が力まず自由に動ける。
下半身の2つの働き
- 上半身が力まないように下半身でからだの重さを一挙に引き受ける。
- 上半身が安定して動けるように下半身の重心を移動させながらバランスをとる。
下半身では、床、イスの接触面を支点として足の裏やお尻(腰)の間を重心が行ったり来たりしてからだが動くたびにバランスをとっている。
どんなに静かな演奏でからだが動いていないように見えても、演奏している限りは上半身の動きに合わせてからだの中を重心が移動している。
このような働きによって下半身は上半身を支えている。これらの働きが機能していなければ、からだの重心が上半身に上がってきて肩や腕に余分な力が入ってうまく演奏できない。
上半身のバランス感覚は打鍵を安定させることに向けられる
下半身のバランスの目的が上半身を支えることであるのに対して、上半身は演奏という自ら生み出した動きのエネルギーを指先で受け止めながら音に変換している。
そのとき指先で重心をとりながら手や上半身を支えている。
※このとき指先には【音の質量+それに付随した上半身の重さ】が掛かっている
またその重心は打鍵のたびに指から指へと移動させなければならない。
上半身の2つの働き
- 音楽のエネルギーを指先で受け止めて支える。
- 打鍵のたびに指先の重心を移動させてバランスをとる。
楽譜には数えきれないほどの音のつながりがあるが、その一音一音に対して音楽的表現を込めながら瞬時に重心をとり、それを打鍵に合わせて移動していくというピアノならではの専門的なバランス感覚が求められる。
もし鍵盤から離れた指に重心が残ったままで、次に打鍵する指先に重心が移動できていないと力みが残って筋肉が固くなり、動きが重くなったり、弾くのがしんどくなったりする。
つまり、上手く弾けないということなのね。
その状態で無理をして弾き続けると手を傷めてしまうよ。
脱力によってからだの重量を感じるから重心がとれる
ピアノ演奏でなぜ脱力が必要だと言われるのか。
力が入っていたら弾きにくいからでしょ?
そりゃそうだが、そんなざっくりとした説明では脱力する方法も曖昧で、力みに悩まされ続けてしまう。そこで、わたしなりに解明した脱力の意味と方法についてまとめてみた。
重心をとるためにはしっかりとからだの重量を感じること
安定して演奏し続けるには、からだの重心を移動してバランスをとり続けなければならない。
重心をとるには力は不要で、皿回しのように重力を下半身で受けて安定するポイント(重心)を見つける。つまりからだの重さをしっかりと感じることで重心がとれるのだ。
肩や腕に力が入った状態ではからだの重さを一点で感じることができないので重心をとることができない。だから脱力しなければならないのだ。
まとめると、脱力することはからだの重さを感じるために必要不可欠なのね。
からだの重さを感じることで重心をとることができるから。
そうなの。そして重心をからだの動きに合わせて移動させることでバランスがとれ、安定した演奏ができるのよ。
ピアノ演奏における2種類の力
ピアノ演奏における力は2種類あって、ひとつは下半身が受け止める上半身の重さ(重力)、もう一つは指先で受け止める上半身から生み出される音楽のエネルギー(力)である。
下半身、指先それぞれが、それぞれに掛かる重さを感じることでそれぞれの箇所で重心がとれるのだ。
そしてからだはつながっているので、それぞれに掛かる力がからだ中を移動してからだ全体でバランスをとっている。(からだの動きに合わせて重心移動している)
【ピアノ演奏における2種類の力】
- 下半身が受け止める上半身の重さ(重力)
- 指先が受け止める音楽のエネルギー(力)
※指先にはからだの動きによって上半身の重みが掛かるが、それは音を鳴らすために使われるので音楽のエネルギーの範疇になる
※下半身に掛かる重力は、音を鳴らすために使われた上半身の重さを差し引いたものになるので、曲の動きによっては変動が激しくなる
このうち下半身で上半身の重さをしっかり受け止めたときに感じる状態が、ピアノでいう「脱力できている」感覚になる。
この脱力できた状態は無駄な力が入っていないとも言われる。後はこの状態にあって上半身の中で音楽のエネルギーを自在に操ることができれば(皿回しで言うところの上手く皿を回せているのと同じ)思い通りの演奏ができるだろう。
この脱力できている状態をくわしく説明してもらえないがゆえに、人によっては重大な誤解が生じている。わたしもそうだった。
脱力しなさいという言葉をそのまま素直に受け取ってしまうと、肝心な指先までもふにゃふにゃにしてしまい音楽のエネルギーを支える(重心をとる)という発想がなくなり、安定しない演奏に苦しむ羽目になる。
演奏に力(上半身が生み出す音楽のエネルギー)は必要。その力が流れていかずに関節や筋肉に留まってしまうことが問題なのだ。せいぜい力まないようにと言ってくれればよかったのに…
まぁまぁ、脱力の説明って難しいのよ。とくに演奏中の脱力なんて…
結局からだの感覚は本人にしかわからないからね。
脱力は骨格で支える感覚だけでOK
いわゆるピアノで脱力できている状態というのは、わたしの理解ではからだの重さを骨格だけで支えている感覚になる。
ピアノを弾く姿勢をイメージしたとき、腰骨、肩甲骨、肘、指関節だけでからだを支えている感覚。音を出そうという動きがなければ、そこには力が生じていないはずだ。
たとえば起立の姿勢を思い浮かべてほしい。
足裏の上に膝、腰、背骨、肩甲骨、頭蓋骨がバランスよく乗っかっていれば、骨格だけで支えることができる。そこには支える以外何の力もいらない。
ところがお辞儀の姿勢で止まってみると、からだを支えるには骨格以外にふくらはぎや腹筋、背筋、首筋などの筋肉にも力が入る。力を抜くとたちまち前に倒れてしまう。つまり、骨格だけでからだを支えられずに筋肉に力を入れていることになる。
このことからも骨格だけでからだを支えることができている状態は、支えるためにどこかに力を入れる必要がないことがわかる。だから、骨格だけでからだのバランスがとれている状態は脱力できているといえるのだ。
でも、実際の演奏で筋肉に力を入れずに動くことなどできないわ。完全に脱力するなんて無理でしょ。
もちろん完全に脱力してしまったら音など出せない。ただ弾いているときに必要な力は、弾こうとする動きのエネルギーであって、からだを支えるための力はいらない、とわたしは考えている。
からだは骨格を支点としたバランスで十分に支えられていると感じている。
なので、脱力に関しては骨格でからだを支えている意識をもつだけで余分な力が入ることはないと思っている。
からだの中をめぐる力は弾こうとする動きのエネルギーのみと捉えるぐらいが力みを生まないヒントになるのではないだろうか。
動きのエネルギーの中には、上半身の動きに付随した重力も含まれるので、実際にはこの2種類の力が混同してしまうのだが、音を鳴らすための力はすべて動きのエネルギーとして一括りにした方が必要でない力と区別しやすいだろう。
もし弾いているうちに動きのエネルギーが力みによって邪魔されているような感覚があったら、弾きながらであっても、もう一度骨格を意識してしっかり下半身でからだの重心をとり直せばよい。
まとめ[脱力→重量→重心→動き]のサイクル
演奏中の弾きにくさを解消するにはからだの動きに合わせて重心を移動させることだ。
重心をとるためには重量を感じなければならない。それには脱力が必要。
脱力できてこそ、からだの真の重さを感じることができる。力んでいてはからだの重量を感じることはできないから。
からだの重量を感じることができれば重心がとれる。重心をとる感覚がつかめれば、後は動きに合わせて重心を移動させる。
ピアノ演奏におけるからだの動きの根本は、このことが繰り返されているのだ。
≪ピアノが弾きやすくなるためのポイント≫
- 脱力できている状態とは、骨格だけでからだを支えている感覚である。
ピアノを弾く姿勢で言えば、腰、肩甲骨、肘、指関節でからだを支えている感覚。 - 脱力後に感じられる2種類の力
・下半身が受け止める上半身の重さ
・指先が受け止める音楽のエネルギー(質量=重さ) - 重さをしっかり感じられたら重心がとれる。
- ピアノ演奏では二本の足の裏、イスと接触しているお尻、鍵盤と接触している指先で重心をとりからだを支えている。
- 演奏中のからだの動きに合わせて重心を移動してバランスをとる。
最後までお読みいただきありがとうございました♪
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