ピアノを弾くときに第3関節が大事だと聞いたことがあるだろうか。
わたしは過去に誰かから耳にした程度だったので、第3関節についてとくに意識することなく、ただひたすら指先の感覚が大事だと思って弾いていた。
しかし、それだとどうしても壁にぶち当たってしまう。その度に、第3関節を意識することで問題が解決したり仕上がりが良くなることを体験してきた。けれどその解決理由が曖昧なままだと、意識することを忘れてまた同じつまづきにあうのだ。
たとえば第3関節を固めて弾くと良いと言われても、その情報だけでは何がどう良いのかわからないままだ。それでも第3関節を意識して弾くと確かに良い効果がある。そこを明らかにし、納得したのならもう忘れることはない。
そのような経緯があって、今では第3関節を意識することはテクニックの向上のためには避けては通れないと思っている。
なので今回は、「第3関節が大事」とはどういうことを言っているのかについて、わたしなりに納得していることをまとめてみた。またどのように奏法として組み込めるのかについても説明している。
- 指の第3関節はなぜ大事なのか
- 指の第3関節をどのように意識すればいいのか
- まとめ【第3関節から弾くことはテクニックの向上につながる】
断っておくべきことは、この記事は、わたし個人が自分なりの理屈で第3関節を重視した弾き方に移行していった過程をまとめたものであり、誰かに習ったものではないということ。なので違和感のある理論については受け流してもらいたい。何か参考になるものがあれば幸いである。
指の第3関節はなぜ大事なのか
易しい曲なら特に問題視することなくやり過ごせるが、難易度が上がるとテクニックの無さを実感することがある。
それは打鍵の安定に関することである。
安定感があればもっと音を響かせるし、速くも弾けるし、タイミングも合うのに…。
それを解決する鍵のひとつが第3関節だ。
第3関節はどこにある?
まず、指の第3関節はどこなのか確認しておこう。
この図では、いわゆる第3関節(中手指節関節)のことをMCP関節と表記している。
演奏するときに意識すると良いとしている第3関節(MCP関節)は、指番号2~5指に関してのことである。(図の赤丸部分)
例外は親指だ。親指は他の指と比べて関節が一つ少ない。
なので親指に関しては、図の青丸部分(親指のCMC関節)を意識すると良いらしい。
第3関節は、拳を作ったときに山のように飛び出る関節部分のことよ。手のひら側から見ると赤線部分がその関節になるの。
へぇ、意外と手の中心に近いところにあるのね!
第3関節が大事だと言われる理由とは
わたしが思う理由は2つある。
- 第3関節が指先タッチと手を支えるから。
- 第3関節が指が動く起点だから。
これについて説明してみる。
理由1)第3関節が指先タッチと手を支えるから
前回の記事でタッチの支えについて書いた。打鍵したときの指先でバランスをとり手の形を安定させられることがタッチを支えることであり、それが良い音色につながるという趣旨だった。
指先で鍵盤をタッチすると同時に手を安定させるためにバランスをとったならば、自ずと第3関節に負荷がかかる。つまり手のバランスをとるときは意識するしないに関係なく、打鍵した指先に伝わる鍵盤からの跳ね返りの力を第3関節が吸収して指先や手がグラつかないように安定させている。そういう仕組みなのだ。
この安定感は第3関節を意識すればするほど得られる。逆に言うと意識しなければ支えが薄くなる。
理由2)第3関節は指が動く起点であるから
弾くということにおいては先端である指先を動かすという意識になりがちだが、指の動きの連携を考えたとき、動きの起点は指先ではなく、より指の付け根に近い第3関節(MCP関節)になる。(指の付け根は手根中手関節(CMC関節)だが、実際の演奏として指を動かす感覚は第3関節のほうにあると思う。)
第3関節を起点として動くことを意識すると、弾き心地の安定感に加え、速さやパワーもラクに調整することができる。
試しにテーブルの上に自然に手を置いてみよう。(指が自然にカーブを描き、手のひらがドーム状になった状態)
その状態で指の先端を意識して一本だけ連続で動かしてみる。
そのあと、同じその指を先端ではなく第3関節から動かすことを意識して連続で動かしてみる。そのとき速くしたり、強く動かしたりしてみよう。
おそらく感覚の違いを感じられたのではないだろうか。
第3関節から動かした方が格段に動かしやすいわ!
実際のところ、指の動きは意識するしないに関係なく必ず起点から起きている。ならば、そこを意識することで動きのエネルギーがもっとスムーズに流れるのだ。
それは無理のない自然な動きを後押しすることになり、ラクで効率的な弾き方になるからだ。
指の第3関節をどのように意識すればいいのか
わたしは第3関節を重視する弾き方について習ったことはない。
なので、聞いたことのある「第3関節を固めて弾く」とか「第3関節から弾く」とかという言葉通りにやってみるしかない。
けれど、第3関節を固くするという表現は体を固くしてしまいそうで良いイメージがない。なので、これは即決不採用とした。
言葉のイメージ力って半端ないから、自分にとって違和感のある表現は取り入れない方がいいわね。
そいうわけで、動きの起点でもある第3関節から弾くということについて検証してみた。
第3関節から弾くことで違いがわかる2つのこと
第3関節から弾くとは・・・とりあえず弾くという動作を第3関節から行うと理解してやってみる。
わたしはテクニックをそれほどマスターできていない頃から、イメージした音をそのまま指先にフィードバックして演奏するという信条を持ち続けていた。
タッチや音色こそ体の使い方ですごく変化するのだが、体をどのように使うのかという考えになかなか及ばなかったのだ。
ひたすら頼りはイメージと指先だけだったのね。
なので、第3関節から弾くように意識するとそれまで指先に対して向けていた集中が減少することになる。
真逆ともいえるやり方をして大丈夫なのかと不安になったが、何度も試して確信したことは弾き心地の安定感と音色の違いだった。それによって第3関節から弾くことを採用しようと決めたのだ。
①安定感
第3関節は手のひら側でいうと指の付け根部分になる。(親指は例外)
そこを意識して弾くと、指先で弾くというより手のひらで弾いている感覚になるのだ。この感覚が大きな安定感につながる。
第3関節から弾くことで得られる安定感は、感じている音楽を違和感なく手指で表現することができる。
具体的に言うと、胸鎖関節からの動き(音楽)のエネルギーは、腕、手首に伝わり、第3関節を通過して指先に伝わる。この動きの連動に素直に従ったとき、つまり第3関節を意識的に経由させたとき、より音に熱量を込めることがラクにできるというわけなのだ。
胸鎖関節についてはこちらの記事を参照。
②音色
第3関節から弾くことを意識すると、音の響きに広がりを感じた。音色に充実感もある。
一方従来の指先を重視した弾き方では、前者と比べると音色が分散せず定まった感があって、よりクリアな印象。
しかし、指先にかかる圧力の差の分だけ、前者は開放的で後者には詰まりを感じる。
(※音の質量が第3関節に多くかかるか指先に多くかかるかで響き方が違ってくるということか)
また指先重視の場合、コントロールが上手くいかないと音色に諸にそれが出てしまうが、第3関節から弾くと、関節の部分で力が上手く処理されるので雑な音色になったりはしない。
指先重視で弾くことから第3関節を起点とする弾き方への切り替え方
第3関節を意識して弾くということは、結果として指先の感覚よりも第3関節から動く感覚を優位にするということになる。
それは、わたしにとって馴染みのある指先の感覚を重視した弾き方から第3関節の方へ意識を多く向ける弾き方へと変えることだ。
今までのやり方を変えるには慣れるまで時間がかかるが、根気強く第3関節の方へ意識を向けつづけるしかない。
第3関節に意識を向ける方法としては、打鍵後の鍵盤からの跳ね返りの力を第3関節で受け取めている感覚を利用しよう。
この感覚を十分感じられるようになったら、跳ね返りの力を第3関節で受け止める前に意識する(予測する)こと。そうすることで第3関節から動き(弾き)始める感覚へと切り替えていける。
鍵盤からの跳ね返りの力を第3関節で受け止める準備をする(予測する=意識する)ことで第3関節を重視した弾き方、つまり第3関節から弾くことができるのだ。
跳ね返りの力の予測だから、ƒにはƒの、pにはpに応じた準備になるのよね。
このような練習を続けていくと、始めは第3関節にかかる衝撃を予測して関節を固めているのだが、そのうち第3関節へ直接音の質量をかけるようになり、指先は演奏において単なる作用点にすぎない立ち位置になる。
この直接第3関節へ音の質量をかけて弾くことが、「第3関節から弾く」という意味なのではないかとわたしは理解した。
それ以来わたしの中で、第3関節はタッチを支えるという重要な補佐役から、演奏において主体的に動く部位という認識に変わった。
タッチの支えについての補足
本記事を読み進めると、前回の記事で書いたタッチの支えに関してのアプローチが違ってくるのではないかと思われるだろう。
実際そうだと思う。
どちらの記事もタッチの支えは第3関節にあるというスタンスだが、前回の記事では指先重視で弾いている場合の解釈となっている。
今回の記事では直接第3関節から弾く、つまり第3関節を主体とした弾き方なので、もはや支えという役目をも包括した弾き方となる。
言い換えると、改めてタッチを支えるなどと意識する必要がないほど第3関節の動きそのものが安定したタッチとして表れる弾き方だということなのだ。
このことからも、第3関節から弾くということは、そのように意識しない弾き方よりも”進んだ弾き方”だとわたしは考えている。
まとめ【第3関節から弾くことはテクニックの向上につながる】
第3関節から弾くことは、安定感をもって速さや強弱などの表現ができる上に、音色にも広がりや厚み(深み)といった魅力的な変化が得られることから、演奏技術がグンとアップする。
すでにこの弾き方を無意識にできていたという人もいるだろうが、自覚することでその効果や安定感は揺るぎないものになるはずだ。
第3関節に関しては、今までの長い練習の中で何度もそれに助けられながらも、その重要性がわからないために、つい意識することを忘れてしまっていた。けれど、巡り巡って結局は第3関節が大事なんだというところに戻ってくるのだ。
今では弾きにくい箇所だけではなく、奏法として第3関節を意識することが大事だとわかったので、もう忘れることはない。
ピアノの学びは螺旋階段を上っているようなもので、いろいろ試して以前の気づきと同じところへ戻ってきても、それは一段も二段も高い視点での気づきとなっている。
だから第3関節に関しても、ピアノを弾き続ける以上、また新たな見解が加わっていくだろう。
【第3関節が大事だと言われる理由】
- 第3関節が指先タッチと手を支えるから。→指先や手がグラつかずに安定する。
- 第3関節が指が動く起点だから。→無理のない自然な動き。ラクで効率的な弾き方。
【第3関節から弾くメリット】
- 安定感のある弾き心地
- 速さや強弱のコントロールがしやすい
- 音色に広がりや充実感がある
【第3関節を起点とするための切り替え方】
- 打鍵する前に鍵盤からの跳ね返りの力を第3関節で受け止めることを予測して(意識して=準備して)弾くようにする。
- 慣れてくると、予測から関節を固めるのではなく、直接第3関節に音の質量をかけて弾くようになる。
最後までお読みいただきありがとうございます♪
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